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三島霜川の「馬肉」を   

 年末に至り三島霜川の「馬肉」を読む。数年ぶりである。初出がいつだったか資料が手元にないが、今回は、『千波万波』に収められたもの。

 以前読んだときは、フーンと思った程度でしたが、今回、『千波万波』所収の版であらためて読んでみると、以前の読みが、ストーリを追った程度の浅いものだったことに愕然とする。文学研究者ではない私には、この「馬肉」が文学としてどういう評価を受けるのかわからないが、「馬肉」に描かれた明治40年代初頭の一つの人間像、――描かれているのは、32歳の社会の片隅にようやく生きることを許されている工場労働者だ!――、さらにその描き方には興味をひかれる。この当時、こんな人間をこんな風に描いた作品があったのだろうか。
 そもそも、明治40年代初頭に、工場労働者の負の生を描いた文学はどれほどあるのだろう、思い浮かぶものがない。そして彼〔蒲田〕は、霜川の明治40年前後の作品「解剖室」「虚無」などの登場人物に共通する“影”を負った「異端」の人間であり、その典型とも言ってよい人物(その意味では霜川文学の「正統」な人物)だろう。そもそも月島の路地の「馬肉屋」というのが、対岸の銀座、築地にとって「異端」であろう。

 現代の日のあたらない隅にもこうした生を送っている人間がいるだろう。いや、ここに描かれているのは、弱者の境遇に追いやられた現代の社会的病者の先取りなのではないかとさえ――ということを、説得力をもって語れる自信はないが――思えてくるのだ。


追記:2019.1.5
「馬肉」の初出は、『江湖』(明治41年5月1日号)

 ※『江湖』
    明治41年(1908)3月~8月
    発行所 江湖社
     https://myrp.maruzen.co.jp/book/ysd_a_gc12418/

再収
『千波万波』大町桂月・樋口龍峡 共編(日高有倫堂/明治42.7)
『千波万波』大町桂月・樋口龍峡 共編(松本商会出版部/大正5.2)再版


by kaguragawa | 2018-12-30 23:19 | Trackback | Comments(0)

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