「トタン屋根を雪が滑り落ちるような・・・」
2014年 06月 29日
“元来K君の家は、新橋の貨物駅であった汐留の、貨物の線路と向かいあった通りにあり、・・・”(ちくま文庫7p)
《線路と向かいあった通り》とは?、
“田園調布一、二、三丁目、東玉川町、玉川奥沢町などへ投下された焼夷弾は、あたかもトタン屋根を雪が滑り落ちるような、異様に濁った音をたてて落下して来、・・・”(ちくま文庫15p)
《トタン屋根を雪が滑り落ちるような、異様に濁った音》とは?、といったたぐいのものです。
上の例は、実際にK君――堀田のいう「K君」とは、詩人・小山弘一郎のはず――のお父さんの運送店の場所がほぼわかり当時の地図を見て、なるほど、と合点はしたのですが、下の例は、雪国・北陸に育った堀田善衛ならではの表現というべきなのでしょうが、残念なことにその同じ地域に生まれ育った私にもよくわからないのです。
『方丈記私記』を精読?していたときから一か月以上もたった今頃このことを書くのは、つい先日、焼夷弾の投下(落花)についての別の、しかし、堀田の記述を思い起させる表現に出会ったからなのです。堀田の場合は1945年3月9日夜「東京大空襲」の折の記憶ですが、下の記憶は同年8月1日夜の富山大空襲の折のものです。
“焼夷弾が落ちて来る時は。まるでどしゃ降りにでも遭った時のようにざぁっつという音を立てる。”
この個所が堀田の雪の例を思い出させ、そういうことだったのかと思わせてはくれたのですが、堀田の核心にちかずくことを容易に許してくれないこの書物『方丈記私記』については、未だに得心のいっていないこの個所を含め、片言隻句にこだわって、折々、書いてみたいと思っています。
〔追記〕
上に一部引用した富山大空襲のドキュメントについては、いずれ紹介したいと思っています。ぜひ多くの方に全体を読んでいただきたいと思っていますので、あらためて紹介します。
by kaguragawa | 2014-06-29 17:00 | Trackback | Comments(0)