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“事件の真相は後世の歴史家が”   

 大逆事件で死刑の宣告を受けた人々のなかでも、「農」に関わっていた森近運平のことはもっと知りたいと思う人物である。彼が、100年前の今日、妻の繁子と娘の菊代へ宛てた手紙を紹介したいと思います。

 実に世に類なき裁判であった。判決を知った時、御身は狂せんばかりに嘆き悲しんだであろう。まことに思いやられる。それも無理はない。僕は死の宣告によって道徳的義務の荷をおろして安楽な眠りに入るのだが、御身と菊とはこれがために生涯の苦痛を受けねばならぬのである。御身は今まで僕のために苦労ばかりしてくれたのに僕は少しも報いることを得ず、弱い女に幼児を背負わして永久の眠りに就かねばならぬ。アア胸の裂ける思いがする。愛する我が妻よ、人間の寿命は測るべからざるものだ。蜂に刺されたり狂犬に咬まれたりして死ぬ人もある。山路で車から落ちて死ぬ人もある。不運と思うてあきらめてくれ。事件の真相は後世の歴史家が明らかにしてくれる。何卒(なにとど)心を平かにしておもむろに後事を図ってくれよ。(一部略)

 そして葡萄栽培や養鶏などで飾らず偽らず、自然を愛し、天地と親しみ、悠々としてその生を楽しみうるならば、またもって高尚な婦人の亀鑑とするに足ると思う。順境にいては人の力量は分からぬ。逆境に処して初めて知れるのだ。憂事のなおこの上につもれかし、限りある身の力ためさんという雄々しき決心をして、身体を大切にし健康を保ち父母に孝を尽くし菊を教育してくれ。これ実に御身の幸福のみでなく僕の名をも挙げるというものだ。

 菊に申し聞かす。お前は学校で甲ばかり貰うそうな。嬉しいよ。お前のお父さんはもう帰らぬ。監獄で死ぬことになった。その訳は大きくなったら知れる。悲しいであろうがただ泣いたではつまらぬぞ。これからはおじさんをお父さんと思うて、よくその言いつけを守りよき人になってくれよ。大きくなったらお母さんを大切にしてあげることがお前の仕事であるぞ。
 一月二十一日記

by kaguragawa | 2011-01-21 23:37 | Trackback | Comments(0)

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