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本郷通り/森川町の「文圃堂」   

 本郷区森川町にあった「文圃堂」の場所と周辺の状況についてふれた箇所を、店主の野々上慶一さんと佐々木幹郎さんの対談「「文圃堂」のこと」中に見つけましたので、ここで紹介しておきます。(野々上慶一『文圃堂こぼれ話』〔小沢書店/平成13.3〕から)。宮沢賢治、中原中也、『文學界』など、いろんな名前が思い浮かんでくる“本屋”である。同時期の島崎書店が出てくるのも、私には一興でした。

 ――じゃあ、この〔註:『文學界』の〕四冊目までのときは、野々上さんは本郷におられたわけですか。
ええ。本郷にいました。
 ――本郷森川町八三ですね。
ぼくのところの家主が「おかめや」という古い小間物屋なのですが、それはいまでもあるはずなんです。それが家の隣でしたから。「喜多床」という、古い床屋が反対側の隣にあった。棚沢という本屋があったり、角が果物屋だったけれども……。東大正門の通りが真っすぐの通りで。角が果物屋で、次が本屋かな。東大の通りというのは、普通の道があって、東大側は古いレンガ塀で並木道、電車道があって、ごくなんかのところはやかましい音のする電車道に面していたわけだ。
 ――道の角ですか。
角というか、細い路地がありました。反対側の角が棚沢という本屋の支店だったと思う。当時は有名な古本屋でした。本で金を貸してくれるんでね。本店は一高、いまの農学部に寄ったほうにありましたが、その支店が角にあって、次がパン屋、それにおかめや、それから私のところです。だから三軒目かな。その次が喜多床です。文圃堂のあったところは、いまはパン屋になっているという話を聞いたけれども、もう何十年と行ったことがないから、どうかなあ。それから、郁文堂という洋書を扱っている大きな本屋。島崎書店は赤門のすぐ前です。島木健作が手伝ったりしていましたね。島木の兄貴がやっていたんですから。


 文中の「喜多床」――漱石の「三四郎」にも登場――や、中村屋の新宿移転後も続けられていた「パン屋」、もと昼夜銀行の建物だった「郁文堂」などについては、少し添え書きしたいこともありますが、いずれ追記したいと思います。当時、本郷区森川町1番地の83だった文圃堂跡は、現在の住居表示で《本郷6丁目18番9号》にあたるようです。文中にも書かれているように文圃堂と同じ区画で、もう一方の(南東)角地にあった棚沢書店は《本郷6丁目18番12号》。

追記:
 私のコメント(最後の段)に不正確なところがあります。余裕が無いので直せないでいます。しばし、お待ちを。
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by kaguragawa | 2016-01-29 20:49 | Trackback | Comments(0)

大逆事件 死刑執行   

 105年前の今日(1911年1月24日)、大逆罪で死刑を言い渡された24名のうち特赦で無期懲役となった12名を除く12名の死刑が、東京監獄で執行されました(12番目の管野すがは、翌25日に繰り延べ)。

 石川一(啄木)は、当日の日記にこう書いた。

一月二十四日 晴 温
 梅の鉢に花がさいた。紅い八重で、香いがある。午前のうち、歌壇の歌を選んだ。
 社へ行ってすぐ、「今朝から死刑をやってる」と聞いた。幸徳以下十一名のことである、ああ、何という早いことだろう。そう皆が語り合った。
 夜、幸徳事件の経過を書き記すために十二時まで働いた。これは後々への記念のためである。


 
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 絵は、竹久茂次郎(夢二)が、1907年8月18日に幸徳秋水宛てに書いた暑中見舞い?はがきの裏に書いたもの。
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by kaguragawa | 2016-01-24 08:06 | Trackback | Comments(0)

倉田繁太郎の続報   

 銀座・十字屋の創始に関わった倉田繁太郎の履歴がわからないものか、と常々思っていたのですが、今日、思いがけないところで、「倉田繁太郎」に出会いました。それは、次の資料。

 『東京書籍商組合史及組合員概歴』
 編集兼発行 東京書籍商組合 大正元年11月

 次のように記されています。情報の出所は本人か十字屋であろうと思われ、上京の日付までが書きこまれた良質な記述です。

 十字屋 倉田繁太郎 初代(万延元年十月十七日生) 東京市京橋区銀座三丁目二番地

 生国は富山県射水郡作道村にして、世々農を営む。明治九年三月八日出京し、精義塾、若松塾、攻玉社等を転学し、明治十年、原胤昭の経営する十字屋を譲受け、基督教画及び洋書の輸入翻刻を主としたりしが、明治十七年以降楽器の販売を開始し、従って音楽書を出版し、爾来楽器を主とし、書籍出版販売を兼営して今日に及ぶ。

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by kaguragawa | 2016-01-22 19:58 | Trackback | Comments(0)

田中範康作品集Ⅱ[音の情景]   

 田中範康作品集Ⅱ[音の情景]
 Works of Noriyasu Tanaka II “The Scenes of the Sounds”
 
 2011年の「作品集」に続いて、一昨年(2014)「作品集Ⅱ」が出ていることを知りませんでした。たった今、amazonで注文しました。楽しみ。

 http://www.kojimarokuon.com/disc/ALCD103.html
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by kaguragawa | 2016-01-05 20:18 | Trackback | Comments(0)

《三島霜川》略歴巡り(4)   

三島霜川 ミシマソウセン(劇)

名は才二、明治九年四月富山県西砺波郡麻生村に生れ、「山霊」「スケッチ」「孤巌」「村の病院」「平民の娘」「虚無」等を著した。「演芸画報」記者。
現住所 東京市外池袋字本村


 出典:『明治大正文学美術人名辞書』
  ・編纂者 松本龍之助
  ・発行  大正十五年四月五日 (1926.04)
  ・発行所 立川文明堂
          大阪市南区安堂寺橋通三丁目四十五番地
  ・執筆者 記載なし(松本龍之助か)


 ※以前の「《三島霜川》略歴巡り」は、2年前!のこのブログにあります。
 http://kaguragawa.exblog.jp/m2014-02-01/

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by kaguragawa | 2016-01-04 19:55 | Trackback | Comments(0)

2016年元日   

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 バッハの“インヴェンションとシンフォニア”をアンドラーシュ・シフのピアノで。
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by kaguragawa | 2016-01-01 17:28 | Trackback | Comments(0)

初日の出 (三島霜川)   

 ふと眼を覚ますと、もう餅を焼いている芬(かおり)は、微かに鼻をうつ・・・、おお!今年という今年は初日を拝むはずだっけ。私は、勢いよく床を離れた。食事の時は何時でも一家が団欒(まどい)する部屋には、祖母やら母やら妹やら、皆いろりを取り巻いて、忙(せわ)しそうに餅を焼いている、いろりには柴が盛んに燃えて、部屋は、うっすりと煙っていた。
「もう直にお雑煮をいただくんだよ。早く顔を洗っていらっしゃい。」
 祖母は、ふと後ろを振り向いていった。私は軽くうなづいた。
「今日は昔風に、門(かど)の川で顔を洗ってきましょう。」
といいながら、土間へ飛び下りて、草履を突っかけた。そして、躍るような勢いで外へ飛び出した。

 見ると、東の空には、藍やら、紫やら、瑞雲群がり立って、その底の底の方には、微かな紅が見透かされる。
「ほ!、ちょうどいい」
 途端に、どこやらで、き、き、きいと刎ね釣瓶をあげる音・・・多分若水を汲んでいるのであろう。戸口には、門松青々として、家の栄を慶んでいるかと思われた。それを見てすらも、気が伸び伸びする。
 間もまく私は、門川の岸に立った。清冽な流れは、いささかの瀬を作りながら、静かに流れている・・・それも若水!私は、流れを掬(むす)んで嗽(うがい)をした。指先から、ちらちらと白気が立つ・・・顔を洗っていると、血も心も新しくなってくるような心地がする。

 しばらく経った。群がり立っていた雲は、いつか、どこへか片付けられてしまって、山の影は際立って黒くなってきた・・・かと思うと、東の空に一抹の紅が動いて・・・動くようにパッと染められて、旭は、赫灼として、悠(ゆるやか)に山の端に昇るのであった。流れの瀬にも、幽(かすか)な紅がちらちらする・・・この新しい光を浴びて、流れは、急に勢いづいた・・・勢いづいたように、その音が高くなったように思われた。
 夜の幕はまったく破られて、旧い年はとこしえにこの世から消えて了った。空は、映々(はえばえ)しくなって、燦爛たる初日の光、そこらに輝きわたるかと見れば、
「やあ、今年も好い元日だ!」
とさながら天上から落ちてきたかのよう、天気の和静を神に感謝するような、喜悦と満足との溢れた声がした。
 雑煮煮る煙が、村の戸ごとの屋根から朝の煙盛んに登り始めた。



 ※三島霜川の明治37年の『文芸界』新年号の作品です。幼少期の思い出をエッセイ風に仕上げたものなのでしょう。36年期の諸作品と同様の田園詩的筆致が見られますが、私にとって興味深いのは、歿年不明の“祖母”が登場していること。
 この年の同じ1月1日づけで短編作品集『スケッチ』(新聲社)が発行されると同時(2月)に、一つの方向転換を告げる「村の病院」が発表されます。その境目にある小品です。

(2013.01.03の記事を再録)
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by kaguragawa | 2016-01-01 17:27 | Trackback | Comments(0)