「今の日本の憲法はな、明治のお人たちの、血やら涙やらいのちやら」   

 先日、書いた赤旗事件は山口義三(孤剣)の出獄歓迎会でおこったものだが、この山口孤剣の名前を最近思いがけないところで、目にした。
 堀田善衞の『審判』に登場する不思議な老婆・郁子刀自――モデルは明治の自由民権に関わって生きた堀田善衞の伯母・郁子であることは明らかだが――の語りに、こうある。

「吉備彦にな、よく言うがや。今の日本の憲法はな、中江兆民先生や、名古屋の山口孤剣さんの『破帝国主義論』やら、黒岩涙香さんやら、幸徳伝次郎さんやらなんやらの、たんとたんとの明治のお人たちの、血やら涙やらいのちやらの苦労の、やっとかっとのことでみのったもんやがいね、おろそかに思うでないぞ、明治もんのわたしらにも、いまの憲法の方が教育勅語よりよっぽどありがたいがいね、気イ長うして読んでみられ、ありゃ明治の下積みのお人たちの苦労のたまものやがいね、ちうて吉備彦に言うても、ちょっこしもピンと来んらしかったがいね、ハハハ」

 山口義三は山口県の出身で「名古屋の」という意味が私にはわからないが、なぜか――知名度の低さを補うための堀田の親切心だろうか――著書の『破帝国主義論』までが挙げられている。
 それよりも、「明治もんのわたしらにも、いまの憲法の方が教育勅語よりよっぽどありがたいがいね」と自由民権の空気をよく知る老婆に語らせる堀田善衞の、明治の自由民権と現在の憲法とのつながりの指摘は、味わってみる価値のある、というよりあらためて深く検証する価値のある貴重な、ものではないか。

 なお、この伯母郁子は堀田自身が自伝的という小説『若き日の詩人たちの肖像』にも登場し、主人公の若者にやっかいな存在な直言婆さんとなること、堀田善衞ファンの方にはご存知のところであろう。

追記:“名古屋の山口孤剣さんーー”について;
『破帝国主義論』(1903)の奥付によれば、発行所である「火鞭社」の住所が「名古屋市武平町三丁目百六十九番地」であり、“発行兼編集人”と記されている山口義三の住所も、同様に「名古屋市武平町三丁目百六十九番地」となっていることによるのであろう。山口義三が名古屋に住んだことがないと断言はできないが、疑問である。確認は課題とします。








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by kaguragawa | 2017-06-25 16:51 | Trackback | Comments(0)

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