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初冬 日塔貞子   

初  冬
            日塔貞子

ある夜
落葉の風が吹いていた
渡鳥の忘れていった真青な卵の話をきいた
神秘さにうたれて幾夜も幾夜も眠れなかった

遠い北地の潅木原をさまよったなら
冬に脅えてあわてて去った鳥の巣のどれかに
華奢な体温をかすかに残し
薄い殻のなかで
混沌とした夢がはてしない眠りに安らぐような
孵る日のない宿命を宿した青い卵が
たった一粒 ― 置いてあるかも知れないと思った

もう山々に雪が来ている  
絶えまなくさらさらと落葉しつづける潅木原のむこうに
小さな村の灯はメルヘンめいた眼ばたきをして
旅人には孤愁と夕暮れが来るだろう
ああ 旅がしたい
真青な卵よ
寂かな風景に早い冬のめぐりが又還ってきた
冷たい霧に吹かれた真っ青な卵は
ほのかな温みをたちまちに失ってしまうだろう
私のあこがれも
重たく霧にぬれたまま
ついにはある夜
凍る星々のあいだに紛れ去るだろう・・・・・・



桜桃花会さんのブログ「雪に燃える花」から引用させていただきました。

by kaguragawa | 2013-11-11 20:07 | Trackback | Comments(0)

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