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『晩年の父犀星』をようやく   

 7月末に買った本をようやく手にとりました。室生朝子『おでいと――晩年の父・犀星』(ポプラ社2009.7)。
 「晩年」といっても、これは死の病にのぞんだ犀星と娘の朝子さんの物語です。講談社学芸文庫に『晩年の父犀星』としてあったものですが絶版になっており、『弟の死』を加えて単行本として再刊されたもの。一気に読みとおしました。

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                       *絶版の講談社学芸文庫『晩年の父犀星』

 偶然、笠森勇さんの『詩の華――室生犀星と萩原朔太郎』(1990)のページを繰っていて、犀星の死に際した三好達治の感慨をつづった文章に出逢いました。孫引きですが、書き写しておきます。

 “室生さんの訃音は、私は夕刊で知った。たうとう、やっぱりね、と思ってゐると、ややしばらくして電報をいただいた。電文によると、室生さんは生前メモのやうなものを残して置かれて、打電の先はリストがあった、それに従ふといふ意味の附言があった。この附言には、私ははたと胸をうたれた。私は頭を洗ひ、やや夜ふけの時刻に衣服を改め、袴をつけた。(中略)電報の附言を読みながら、私はまったく忸怩たる気持ちに耐へなかった。私の固陋は自らもう承知であったが、病床にお尋ねもせず、その上遺書のやうなメモに名前を加えていただいたのは、もはや、もう、永遠に申しわけのないことであった。”

 犀星と達治の間には、朔太郎死後の朔太郎全集の編纂にあたって達治の発言に起因する小さなトラブルがあったようである。達治はそのことをずっとひきずっていたようなのである。

by kaguragawa | 2009-09-27 23:57 | 本/映画 | Trackback | Comments(0)

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